雨の降る世界で私が愛したのは


「伊吹のお姉さんって」

 一凛が訊ねようとすると

「それに一番凶暴なのは俺じゃなくてやっぱ睦雄だよな」

 伊吹が一凛の言葉に被せるように言った。

「あのねー、睦雄は」

 一凛ははっとして言い直す。

「彼はわたしのためにあなた達二人を怒ったの」

 なんでと問う依吹に一凛はどっちかの腕が自分の顔に当たったことを話した。

 依吹はその話を聞くと少し怖い顔をして正面を向いた。

「睦雄の奴、本気で一凛に惚れちまったのかもな」

「それに彼は馬鹿なんかじゃない、ちゃんと話せるわよ、それに」

 文字を読めることは言わなかった。

 なぜだかそれは一凛と彼だけの秘密にしておきたいと思った。

「じゃあ、なおさらだ」

 怖い顔をしたまま依吹は言った。




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