雨の降る世界で私が愛したのは


「そういえば、わたしもやっとあの小説読んだの。最後二人とも死んじゃって、何だか辛い話だった。せっかく愛する人と出会えたのにあんな結末だなんて」

 彼は笑ったように見えた。

「最後が幸せじゃなかったからと言って、二人の愛や過ごした幸福な時間がなかったことになるわけじゃない。結果にこだわる必要はないんだよ。逆に愛は結果にこだわり過ぎると大切なものが見えなくなってしまう。どうしたそんな顔をして」

 一凛は驚いた。

 いったい自分は誰と話しているのだ。

 彼のその厚い筋肉と黒い毛の下には人が隠れているのではないのか。

「あなたは」

 これだけの知性の持ち主がこんな檻に閉じ込められているのだ。

「少ししゃべり過ぎたかな。もう行け。そして二度とここには来るな」

「でも」

「もう俺に関わるな」

 強い口調だった。

 一凛を見つめるその目は声以上に厳しい。



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