雨の降る世界で私が愛したのは
「最後にあなたの名前を教えて。もう二度と来ないから、名前を聞いたら帰るから」
黒曜石の目の奥が一瞬揺らいだ。
「ハル」
ハル
その響きはその低い音色の声と共に一凛の胸の底にゆっくりと下りてきた。
それから、ハルは一度も振り返ることなく檻の奥に姿を消した。
檻の前にたたずむ一凛に雨が降り注ぐ。
それから数日後一凛は周りに宣言した。
「わたし決めた。わたし高校卒業したら留学する。アニマルサイコロジーを勉強する」
色とりどりの傘が並ぶ列の最後部に一凛と颯太は並んでいた。
今朝は少しバスが遅れているようだ。
「留学ってどこの国に?」
颯太は今朝一凛から留学の話を聞いてからずっと黙りこくっていたが意を決したように訊いてきた。
「イギリス」
「日本じゃ駄目なのかい?」
「日本はそういうことに関しては後進国だから」