雨の降る世界で私が愛したのは


「それってあのゴリラが理由?」

 一凛は応えなかった。

「別に応えなくてもいいけどさ」

 颯太は舌打ちのようなため息をついた。

「なんであのゴリラがそんなにいいのか全く分かんないよ。ゴリラだぜ、猿だせ。毛むくじゃらの四本足だせ」

「そんなひどい言い方しないでよ」

 一凛はきっと颯太を睨む。

「ひどいのはどっちだ。人間の彼氏はほったらかしで黒い顔したデカ鼻のゴリラ、ゴリラ、ゴリラに夢中」

 列に並んでいる何人かが二人を振り返った。

「夢中になって何が悪いのよ」

「悪いさ、最近ずっと俺がこうやって朝迎えにこなくちゃ会う時間も作ろうとしない。そんなにあのゴリラがいいならゴリラとつき合えばどうだ」

 黒い人影を詰め込んだバスが重そうにやってきた。

 満員のバスにそれでもまだ人々は乗り込む。

「バス着たけど」

 颯太は不機嫌な声で一凛を促したが一凛は傘を握りしめて動こうとしない。





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