雨の降る世界で私が愛したのは
「ああ、あれ嘘だよ、冗談。彼氏とかいないし、誰とも付き合ってなんかないよ」
それ言うの遅そすぎる、そう言おうとする一凛に依吹はまた唇を重ねてくる。
温かい唇から依吹の優しさが躯に流れ込んでくる。
依吹は優しい。
ずっと前から。
ファーストキスの相手が依吹でよかった。
ほんとうに。
でも、どうして何も見えないし何も聞こえないのだろう。
「どうした?」
「なにも見えないし、なにも聞こえないの」
依吹は少し困った顔をする。
「うーん、この状況はどうしたらいいんだろ。じゃあ、今のはなかったことにするか」
一凛は小さく笑った。
「依吹だったらなかったことにできるかも」
「ひでーな」
依吹は立ち上がると一凛に傘を手渡し藤棚の外に出た。
「行こうぜ」
一凛は青いポンチョの後を追う。
藤棚を出ると傘にあたる雨音が大きくなる。