【短】イノセント


「…ん…」

「長野がオレのこと好きだって思っても?…後からあれは間違いだなんて言われても…もう、手放せる自信ないよ?」


微かに頷けば、あっと言う間に自分から握った手が彼の大きな手に包まれて。

瞳を開けて彼を見つめれば、其処には月の光に晒されて、普段は見ることの出来ない彼の瞳が映し出されてた。


それにとても安心して、あたしは自分から彼の胸の中に飛び込む。


足らない、足らないの。


ただ、言葉にするだけじゃ全然足らない。



態度で示しただけじゃ、どんなにしても、これっぽっちも伝わらないから。


「急なことで、驚いたけど…でも、あたしも…犬井が好き…だよ」


ぎゅうっと学ランの胸元に顔を埋めて、彼の心に一番近い場所で繰り返した。

そんなあたしの行動を拒むことなく、折れてしまいそうなくらいの力強さで抱き締め返してくれる彼。

だけど、その腕が微妙に震えていることに気付いて…胸がいっぱいになった。


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