トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「俺は……」


兄は何かを堪えるように奥歯を噛み、喉が少し震えたように見えた。


「初めから、全部間違ってたんだな。

自分の不甲斐なさを言い訳にして。」


強い力で引き寄せられて、兄の胸に頬が当たる。前に傾いてバランスを失った体は易々と抱え上げられ、膝の上に着地した。

普段は見上げていた顔が私の肩ほどの高さにあり、伏せた目線の先で目が合うのが、いつもと違っていた。


「ずっと、ずっと好きだった。俺は家族愛と恋愛の区別もついてないんだ。


瑞希は、俺にとって眩しいもの全てで。瑞希がいるだけで世界が変わる。色も光りも、全部違って見える。」


初めて兄の真っ直ぐな想いを聞いて、これ以上涙を堪えるのはもう無理だった。


兄がいなくなった後の、色の無い景色。私も兄がいなければ、この世界を眩しく感じることはできなかった。



「瑞希を欲しがる気持ちは、愛とか恋とか、執着心も独占欲も全部混ざって、俺一人ではとても手に負えないんだ。

この気持ちが瑞希にとっての災いになりそうで怖くて、母親の轍を踏むようで、怖くて。


自分一人では勇気が出なかった。


だけど俺は、初めから一人じゃなかったんだな。」


祈りのように呟く声が静かに胸に響く。


「俺の不安を分け合って。俺だけの瑞希でいて。

瑞希には俺しかいないと思って貰えるように努力するから……


これから先も、一緒にいよう。」


その言葉は熱い震えのようで、心臓を捕まれたようだった。


「……うん。

もうずっと離れないよ。」


返事を返すと、もう一度強い力で抱き締められた。もう好きなだけこの手に甘えて良いんだと思うと、その幸福に胸の奥が熱くなる。
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