トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「お兄ちゃんて、イタリア語話せるの?」


「勉強してるけど、なかなか難しい……」


「何か話してみて」


「……あもーれ?」


「ははっ。そのネタはもう古いよ。しかも、思いっきり日本語発音だ!」


兄はちょっと笑って、続けた。


「瑞希が嫌なら、イタリアに行くのは止めるよ。」



まさかそんな事を言ってくれると思わず、どう答えていいかわからなくなった。嫌だといっても良いの……?


兄が私の返事を待つ間、包丁の音だけが響いていた。調理を続ける長い指先。男の人らしい大きな手を眺める。


「……絶対帰ってくるって約束してくれるなら、行ってきても良いよ。」


包丁を動かす兄の手が止まった。自分でも馬鹿だなと思ったけど、精一杯の強がりを言う。


「お兄ちゃんにやりたいことがあるなら、足枷にはなりたくない。


お兄ちゃんがモデルとか俳優やってる方が嫌だったもん。辞めてくれるならイタリアに行くくらいなんてことないしっ。」


声が震えるのを堪えると、鼻の奥がツンとした。


「ありがとう。


ごめん、最初から淋しい思いをさせて。」


兄が心配そうに私を見るので、誤魔化すように続ける。


「たまに洗濯してない服を送って」


「……それは断るけど。


今の俺では色々足りないままで、中途半端なんだ。将来、瑞希と一緒にいるためにも、成長して帰ってくるから。」
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