ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「今日はクライアントとして押しかけちゃいましたぁ」

やたらと甘ったるい声と香りを振りまいて、彗大に擦り寄る女のひと。

彗大の表情が強張って、一目でどういう関係なのかが予想できた。

強調した胸の谷間を彗大の視界に入るようにして、さらに彗大との間合いを詰めてくる。

「アフターはあんなに楽しく過ごしたのに冷たいですよね、神山さん」

わざとわたしに視線を絡めた後、そのひとは全身で彗大との“仲”を見せ付けた。


胸がジリジリと焼け付く。

急に自分の足場がなくなってしまったような、気持ち悪い感覚が襲ってくる。

やだ。やだ。

気持ち悪い。想像したくないのに、想像したくないものが頭に流れ込んでくる。


わたしの知らない彗大を知ってるひと。

彗大が取り繕おうとすればするほど、その事実が浮き彫りになって、気持ち悪くなる。

そうか。彗大は、こういうひとだと我慢出来ずに手、出しちゃうんだ。

睫毛も髪もマキマキロングの、メイクも香水もバッチリ隙のない美人で、スタイルも抜群の……。

恥ずかしい。自分の色仕掛けが、死ぬほど恥ずかしい。

実は彗大にとって、こんな色仕掛けは日常茶飯事で。

効いてると思っていた全ては、実は勘違いで、それほど魅力がなかっただけなのかもと思えてくる。

わたしの“社優李の引力”が錯覚させてただけ。


同じ女でここまで違うんだもん。

しかも、わたしは期間限定の単なるビジネスパートナー。

今、画すらも彗大頼りの情けない状態で、パートナーなんてとてもじゃないけど名乗れない。


もしかしなくても、わたしのほうが邪魔なんじゃないの?

恥ずかしい。嫌だ。もう嫌だ。


このひとが剥き出しにする敵意に、わたしが渡り合えるものは何もない。


「神山さん、ご指名の方がいらっしゃるみたいですし、私、説明なら別の担当さんでいいですよ」

わたしには、出しゃばる資格すらない。
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