ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
はぁー。溜息を吐きながら、さっきから握りしめていたビールを一気にあおる。

残業とはいえ時間外なんだ。アルコールの一杯くらいは許されるだろう。

「やーん♡♡やっぱいい飲み干し音♡♡ほら、もう頼んでるから!!まけぃたもう一杯いこう!!」

この変態め。

まぁ一般的な褒められ方ではないが、こいつも喜んでるならなんか知らんが接待してることになるだろ。

勧められるがまま、更にもう一杯あおりチラリと隣の変態を見ると、ヘラヘラしながらも早々と黒のスケッチブックを取り出し、白チョーク一本で何かを描き始めている。


「………。」


メンタル面においては間違いなく割に合わない仕事相手(パートナー)。

しかも俺には、事務所での基本業務や納期はまだ先だが、他のクライアントの依頼だってある。

いつもみたいに時間内でサバこうと思えば、多分こいつとのことだって、本来の俺ならサバけているはずだ。


なのに。

俺の声が原動力だと言って生み出される現物を目の当たりにしていると、例え時間外労働でも、基本業務が多少押していても、側を離れがたくなるという不思議な矛盾が俺を支配する。



そうだ。最近の俺は合理性に欠ける。

俺らしくない。


「まけぃた」

「なんだよ」


声をかけてくる割に、目線はずっとスケッチブック。

くそ、この変態。声かけんなら、たまにはこっちも向け!


「ふ、なに?今の“なんだよ”。何かかわいいし」


描く手が更に忙しなく動く。

なんだ?……なんなんだ?
今はなぜか、スケッチブックの中身より、下を向き続けるこの変態女の横顔が気にいらない。

また矛盾だ。俺らしくない。

くそ、なんなんだ一体!


「泣かすぞ」

グイッ!

思わず、衝動的にこいつの顎を持ち上げてしまった。

こいつの唖然とした両目に、苛立ちを露わにした俺がしっかりと映っている。


「……。」
「……。」


マッズイなー……。俺、酔ってんのか?
コッチは向かせられたけど、この後がノープランとか何やってんだ。

「わ……」

「やだぁ、“泣かすぞ”だって。“泣かすぞ”。ふふふ、まけぃた超かわいいー♡」


ヤべぇ。

「悪い」と謝ろうとした矢先に真逆の感情が沸く。


こいつ、今ガチで泣かせたい。
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