ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
なんでこんな、かく必要のない恥ばかりをかく羽目になってんだ。

「なんていうか、“コレ”は神山くんが“仕込んだ”ことだし?
私も早朝からせっつかれて色々試さされたわけなんだけど、どうも私じゃ音が違うって言われ、ちゃっ、て。」

語尾を強調しながらの、わざとらしく目の前でゴム手袋を弾いて抜き取る様は、もう、居た堪れなくなってしまうばかりで、申し開けることなど何一つなく。


「お手数おかけ致しました。」

「ご理解頂けて何よりです。」

にっこり。

ああ。目の前で美しく微笑む底知れない相手が、今や奈落の底の魔王に見える。

それでなくてもスタート地点でしくじったことでのパワーバランスがあったのに、今では100対0(ヒャクゼロ)の果てし無い差だ。

これから先、この人と仕事ができたとしても、俺の手駒アイテムがあのヘボ坂上(名ばかり上司)だけじゃ、主導権を握れる日は来ないと思う。




「そういえば、今日は変……社、さんは?」


毎度、変態女変態女と脳内で罵ってるからうっかり口走りそうになったが、流石にこの場面でそれは頂けない。

そう思い、どちらで呼ぼうか迷って、結局、社さんと初めて発してみたものの、この呼び方はとても微妙な気分だ。

いつもならオーナーに挨拶するより先に飛びついてくる(語弊はない)あの変態女が珍しく姿を現さないこともあって、(かくかくしかじかが筒抜けなのもあって、)なんだか今日はトータルで非常に落ち着かない。


「ああ、優李なら昨夜の一件で変な発情しちゃってさっきまで起きてたから、今は力尽きてアトリエで寝落ちしてるわよ」

…………。

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