ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
耳だけを傾けて、ずっとスケッチブックに意識を持っていかれてた時は、ムカついた。

でもそれは、おもむろに声以外の“俺本体”を蔑ろにされるのが屈辱だったからだろ?


コイツの画はずっと魅たい。描かせたい。

なら今は?

やり方はともかくとして、だ。
少なくとも今、
一時的にでもコイツの意識を掻っ攫うことに成功した今、

俺は、コイツの手を、なんで自由にしてやらないんだ?


そこまで考えて、なんて初歩的なことが分かっていなかったかを今更ながらに気づく。

そういうことか。

やっぱりあのオーナーの言葉は呪いだ。

一番、気付きたくなかった感情を自覚してしまった。


俺は、俺を粗雑に扱ってくるコイツが激しく気に入らなかった。

毎度自尊心を逆撫でするコイツを屈服させたかった。

それは事実だけど、全てでは、なかった。


声さえよこせば、画ばかりに気を取られてるコイツが気に入らなかったのも。

何の意識もせず容易く触れてくるのが、どこか癇に障ったのも。

その先にある魅たい色の為だけに、なんの躊躇いもなく触れさせる節操のなさも。


画は描いて欲しいのに、全てを自分に向けさせたいなんて傲慢な矛盾を抱えるのも。




あー……俺は、この歳で何やってんだ。




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