ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
お伺いを立てられたのがよほど嬉しかったのか、ブー垂れていた表情がパッと明るくなってこっちに身を乗り出してくる。

う。だから、その反応やめろ。計算じゃない時のは余計心臓に悪い。


「なんていうのかなー。最初からダーっとなぎ倒す感じじゃなくて、もっとこう、焦れるエロ?で!
でも最後にはバーっと全部持っていかれるようなヤツがいいよね!」

「……なんかすげー伝わるけど、お前の語彙力もすげーな」

ありがとう!と喜ばれるが、別にそこは褒めてない。

さて、どうしたものか。焦れるエロか……。あ。

「この前のカラオケの後、暴走して仕上げたってヤツは?」


俺の不祥事とも言える一件だから提案するのも小っ恥ずかしい話だが。

焦れるという意味では、ずっと悶々とした想いをキャンバスに夜な夜なぶつけ、更にはあのオーナーを満身創痍にさせた経緯まで秘められた、それこそ最後はバーッ!な、いわく付きだがパッション(笑)の総力が結集した作品だろう。

「あーそれはボツ」

「なんで」

そんなあっさり切り捨てたら、ゴム手袋を装着してまで尽力したオーナーも無念だろうと思う以上に、コイツの画にボツという存在があることに一番驚く。

この二週間ずっと魅て来て、俺はコイツのボツの画を、まだ一度として見たことがない。

しかし、この件はこれ以上深追いするべきでなかった。

俺の危機管理アンテナは初めから嫌な予感をなんとなく察知していたのに、本当、コイツにだけは必要以上に振り回される。


「んー。依頼きたタイミングでちょうどまけぃたの指の色が超ヨくて、最初コレだ!って思い出しながら描いてたんだけどね?」

「……。」

「ホラ、あの時は一瞬だったでしょ?だからだんだん色忘れてきちゃって。」

「………。」

「で、朝、上からしょーこちゃんの色を足したら、まけぃたとしょーこちゃんで色がケンカしちゃってさー!」

「…………。」

「もーすっごい二人、相性悪くて笑っちゃった!」

「………………。」


おいおいおい。ちょっと待て。いや、あー……。

聞くんじゃなかった!

依頼って、官能油絵二作品の依頼、ってことだよな。時期的なことを考えても辻褄が合う。

もしかしなくても、あの時オーナーがゴム手袋装着してまで尽力してやってたのも、やたら俺に突っかかってきたり、呪いの言葉を発したりしたのも……

全部、ボツ作品からこの残り一作までに繋がる超長い前振りだったんじゃねぇか……!
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