ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「へーここが彗大のホーム」

事務所に着いての第一声、ほのかに嬉ししそうに呟くから、うっかり抱き締めてしまいそうになる。

せっかく引き締めた顔が台無しになるからマジでやめろ。

「しっかりアウェイを堪能してけ」

「はぁい」

しかし、事務所の扉を開けて、事態が急変する。

「あー神山さーん♡やっと捕まえたぁー!」

「……!」

この下品過ぎるほど露出したEカップには色々とした記憶がある。

しかし、なぜ、この女がここに。

どこかのAVにでも出演してそうな、女教師風の胸開きシャツ×ミニスカートのいでたちは相変わらずで。


「今日はクライアントとして押しかけちゃいましたぁ」

分かりやすい媚び売りで寄ってくると、気安くスルスルと俺の腕に触れてくる。


「えーと、クライアント?」

「ウチのママに言ったら、じゃあ、お店の紹介サイトのコンテンツ変更、お願いしちゃおっかって話になって、今日は代表としてぇ」

頼むから色々とやめてくれ。
さりげなく触れてくる手をいなし、営業スマイルで距離を取る。

「いやーそもそも俺、名刺も何も渡してなかった筈だけど」

「ふふ、神山さん、お店の間ずっとはぐらかすからぁ。実はコッソリ同僚の村野さんに聞いてました♡
アフターはあんなに楽しく過ごしたのに冷たいですよね、神山さん」

ヤバイヤバイヤバイ。
村野、死ね!なんでこんなTPOを弁えられない頭のユルイ女に俺の個人情報漏らした!

確かに、仕事の付き合いで行った先のキャバクラで、やたらアフター誘ってくるから、一度だけラブホに持ち帰った女だ。

だけど、なんでよりにも寄って今日!

本当に勘弁してほしい。

チラリと隣の存在を確認すると、怒るでも笑うでもなく、いつも以上に読み取れない顔をしている。

「お……」

「神山さん、ご指名の方がいらっしゃるみたいですし、私、説明なら別の担当さんでいいですよ」


“神山さん”!
TPOを弁えた、初めての他人行儀な呼び方と敬語に、予想をはるかに上回る焦燥が俺を襲う。

違う!この女はお前と出会う一ヶ月以上前に一回味見しただけの女だ!

ああ、最悪だ。セリフにしたら更におぞましくなる真実に愕然とする。

「えーいいんですかぁ?」

「はい、今日は最終調整の話を聞きにきただけなので、多分別の方でも事足ります」

でも。多分、ここでコイツを他の担当に譲ったら最後、コイツは意地でも帰ってこない自信がある。

「わぁーありがとうございまぁす♡じゃあ神山さん、早速……」

「すみません!コイツは俺しか有り得ないんで!」
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