鬼部長に溺愛されてます

「少し横になっていれば大丈夫だ」


私を心配させないためか、部長はまだ血色の戻らない顔で無理して笑おうとする。
よほど疲れているのだろう。
来月には新入社員研修も始まるし、おそらくその準備で毎日忙しいに違いない。

部長はゆっくり目を閉じて、肩先を上下させるように呼吸を繰り返した。
このままだと苦しそうだから、ネクタイは外した方がいいかも……。


「あの……部長、ちょっと失礼します」


ドキドキする気持ちを抑えながら、シュルシュルと音を立ててネクタイを外す。


「ありがとう」


か細い声でお礼を言った部長が、今度は自分でワイシャツのボタンをいくつか外した。
それで少し楽になったのか、呼吸が落ち着いたようだ。

ソファから離れてフローリングに腰を下ろすと、静かすぎる部屋が私に緊張をもたらせる。
かすかに聞こえるのは、部長の立てる荒い息づかいだけ。
想いの通じていない大好きな人が、私の部屋にいる。いつも見えない壁を張り巡らせている人が、安心しきってすぐそばにいる。

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