【完】姐さん!!
「なに……?」
「暇そうだな、と思って。
天気良いし、せっかくだからデートでもする?」
「なるせのお昼作らなきゃいけないし、そういう気分でもないから行かない……
デートしたいなら空いてそうな女の子に連絡して」
「……ツレないねえ」
ソファに腕を乗せて、その上に顎を乗せる衣沙。
事前に連絡をくれていたなら考えたかもしれないけれど、アポなしで出掛ける気はない。
「まあいいや。
んじゃあ、一緒にゆっくりしようじゃねえの」
衣沙が手を伸ばして、わたしの髪をそっと撫でる。
「ん」と小さく返事すれば、彼がふわりと笑った。
「衣沙、前髪気になる……」
「ああ、伸びてきてんだよねえ。
でもまだ全体的に切るほどじゃねえから、放ってんだよ〜」
鬱陶しいけどな、と。
目元にかかる前髪を払う衣沙。前髪だけ自分で切ってしまえば良いのに、とそれを見つめながら。
「衣沙、ちょっと来て」
「ん?」
もぞ、と身体を起こして、リビングを出る。
2階に上がって自室に入り、彼を座らせてバッグの中から黒い化粧ポーチを手に取った。文字通りわたしの化粧道具が入っているそこから、さらに小さなポーチと櫛を取り出す。
ポーチの中身はヘアアレンジ用のゴムやらピンやらで。
やわらかな黒髪に、すっと櫛を入れた。