【完】姐さん!!
何をされるのかは、検討がついているんだろう。
一瞬目を細めた衣沙は、じっと大人しくしてくれていて。男性の中だと長い彼の髪を、ゴムでゆるく結んでハーフアップにする。
それから落ちてきて鬱陶しいらしい前髪を、アメピンを交差させてバツの形に留めれば完成。
手渡したミラーでそれを確認した衣沙は、満足そうに口角を上げた。
「前髪だけ留めてくれればよかったのに」
「せっかく留めるんだったら、
そっちのほうが似合うと思っただけよ」
昨日のアシンメトリーもふくめて、彼のヘアアレンジをしてあげているのはいつもわたしだ。
何がきっかけだったのかはもう覚えていないけれど、かなり幼い頃から。
そして、そのお返しというほどではないけれど。
昔、わたしのヘアアレンジをしてくれるのは衣沙だった。
彼のことだから、どうせ飽きただけだろうけど。
いまはもう、わたしだけが一方的にやってあげている状態で。
「ありがと、なるみ」
「……何してくれてんの」
「ん? ほっぺにちゅー」
大体どんな髪型も似合ってしまうんだから、イケメンってずるい。
「お礼」なんて言いながら頰にキスしてきた衣沙を軽く睨んで、あ、と昨日の話題を思い出す。
「ねえ。……"姐さん"って、あだ名。
つけたのは、衣沙だって聞いたんだけど?」
アレンジ用のセット一式を、ポーチに押し込む。
手元にかえってきたミラーを見ながらグロスだけを塗り直して視線を衣沙に流せば、彼は「ん?」となんでもないように笑う。
"ん?"じゃないわよ。
っていうかその顔、絶対肯定でしょ。