御曹司のとろ甘な独占愛
「……そう、ですか。…………先程は、取り乱してしまって申し訳ありませんでした。ちょっとカッとなってしまって……つい」

 少し恥ずかしそうに艶のある漆黒の髪を掻き揚げると、微かに照れているような表情で苦笑した。
 いつもの優しい表情に、一花はいつの間にか全身に込めてしまっていた力を抜いた。

「怖がらせるようなことをしてしまって、すみません」

 そう言うと、一花をぎゅうっと抱きしめる。

「ううん。……そういえば、いつかの仕返しをしてなかったから。……これでおあいこ、かな?」

 一花は貴賓翡翠本社に初めて出勤した日に、受付の女性達にちやほやされている伯睿を見て、面白くないと思っていた時のことを思い出す。あの時の余裕そうな伯睿と、今の伯睿と見比べてから、ふふっと吹き出した。

「伯睿も、ヤキモチとか妬くんだね」

「……それは、まあ。俺も男なので」

 伯睿は急に頬をほんのり赤くして、目を泳がせる。

 それから伯睿はフーッとお腹から吐き出すように溜息を吐き出し、ソファに腰掛けた。
 肘を自分の太腿にのせ、大きな手のひらで頭を抱える。

(一花は、遠くにいる大切なお客様へ、誠実に尽くしただけだった。それを俺は……)

 それでも、あの男性客の紛らわしい態度も少しは悪いはず、と内心唸る。
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