御曹司のとろ甘な独占愛
「確かに、あれは不思議な作品だったわね~っ。深い森の中で生まれたような作品で……っあら、もうこんな時間っ! そろそろお暇するわね」

 常盤様はダイヤモンドが輝く腕時計の文字盤を見て、上品な仕草で口元へ片手を添えた。

「今日も山越さんと翡翠のお話ができて、とても楽しかったわ! それじゃあ、またね」

 急ぐようにソファから立ち上がった常盤様を、一花は出入り口までお見送りする。
 ご購入された商品をお渡しすると、彼女はとっても嬉しそうに微笑んだ。

「こちらこそ、とっても楽しかったです! 本日はありがとうございました。またお越しくださいませ!」

 一花は丁寧にお辞儀すると、常盤様と氷翡翠の幸せな旅立ちを願いながら、彼女が見えなくなるまで、笑顔でその先を見つめ続けた。


 ◇

 台北の中心地、高級ブティックやホテルが多く立ち並ぶ場所に、創業から百五十年以上が経った『貴賓翡翠』の新本社ビルがある。

 地上四十階、地下八階の高層ビル。一階正面側には『貴賓翡翠』本店が入っており、世界中から愛好家や観光客が翡翠を購入しにやってきた。
 
 その最上階に、貴賓翡翠代表取締役の社長室がある。
 窓からは眼下に広がる台北の街並みと、近くに聳える台北一〇一がよく見えた。

「伯睿。イタリアの支店立ち上げは、まだ全て終わったわけではないと聞いているが?」

 デスクに両肘をつき、両手を顎の辺りで組んだ五十代の男性が威圧的な声で言う。
 男性の隣には同じく五十代の女性が立っていた。彼女は嫌悪感と親愛をごちゃまぜにしたような表情で、伯睿と呼ばれた青年を睨めつけている。

 その視線にひるむことなく、伯睿は氷の美貌に涼しい表情を浮かべた。
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