御曹司のとろ甘な独占愛
 一流ホテルの料理人達が腕を振るった、輝く料理の数々が並ぶテーブルの前を通り過ぎるが、とても食べる気にはなれない。
 ウェイターが配っていたシャンパンを受け取ると、一花は壁に背中を預ける。

 そのままぼーっと、女性たちに淡々と対応する伯睿を見ていた。 

「ねえ、今日はずっと浮かない顔だよね?」

 声と同時に、ふわりと香水の匂いが香る。
 ワイングラスを片手にやってきた慧は、一花へ小首を傾げた。それから壁に背を預けるように、一花の隣に並ぶ。

 背の高い慧を見上げて目礼し、正面の伯睿を見つめ直す。
 数秒の間のあと、思い出したように「そんなこと、ないです」と首を振った。

 慧は「ふ~ん?」と呟くと、手に持っていたグラスの赤ワインを口に含み、一花の視線の先を追う。

「……なるほどね。王子様を取られて、つまらない?」

「いえ、そんな……」

 お客様の前で間違っても「はい」なんて言えない。一花は笑みを浮かべ、「慧様、お食事はいただかれましたか?」と強引に話を変えることにした。

 しかし彼はそれを許さず、一花の耳元へ顔を寄せる。
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