御曹司のとろ甘な独占愛
「それなら、ねえ」

 獰猛な百獣の王が牙を剥くように、ゆっくりと声を震わせるように口を開く。

「今だけ――僕がキミの王子様になってあげようか」

 一花の顎をクイっと掴み上げ、甘く優しい視線で一花の双眸を覗き込んだ。

「ここを抜け出して、二人きりで過ごすってのはどうかな? うーんと甘やかしてあげる」

 甘いマスクに蠱惑的な笑みを浮かべ、深く落ちていきそうな甘い声音で囁く。
 一花は大きく目を見開き、……顎に掛けられた慧の指に、自らの手を添える。
 それから、そっとその手を外させた。

「……慧様は、お上手ですね」

「なにが?」

「女性を喜ばせる、冗談が」

「……そうかな? キミにはそう聞こえる?」

「はい。とても」

 多くの女性が、彼のこの言葉に口説かれたのだろう。
 けれど、楽しげに細められている彼の瞳の奥が笑っていないのを、一花は感じ取っていた。

「……ふ~ん? 流石、奇跡の審美眼を持つ劉伯睿のお姫様って感じかな」

 そのまま興醒めといった風情で、ふいっと一花から顔をそらす。

 慧は視線の先にいる伯睿を無意識に睨みつけると、伯睿の栄光を全て飲み下すように、赤ワインのグラスに口をつけた。
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