御曹司のとろ甘な独占愛
 伯睿はその頃から祖母に付いて世界各国を飛びまわり、沢山の鉱山を見て、多くの原石や宝石に触れることとなる。
 時には主要取引先であるミャンマーの現地バイヤー会社を訪れ、人脈作りに勤しんだ。

 しかし、伯睿が十一歳を迎えた時。
 病床に臥せることもなく、祖母が急逝する。

 貴賓翡翠の代表取締役は伯睿の父へ交代することになった。

「本日から三年以内に中国・香港・マカオ・シンガポールに貴賓翡翠を展開する。その後日本へ進出し、十年以内に欧米諸国へブランド力を拡大。――貴賓翡翠を、世界に誇る翡翠ブランドに育て上げる」

 もともと貴賓翡翠の経営方針で祖母とよく揉めていた父は、代々受け継がれていた経営方針の改革を決定した。


 それからの日々は、語ることもできないほど無味乾燥な日々だった。
 祖母が亡くなって幾月も経っていないのに、伯睿の新しい母と名乗る女性が、聖母のような微笑みを携えてやってきたのだ。

(家族だなんて、認められるはずがない)

 伯睿にとって、この時期に新しい母を迎えるということは父の裏切りにも感じたられた。「何故こんなに突然!」と父を糾弾し、子供みたいに泣き喚いて、「お母様だなんて認めない!」と癇癪を起こしたかった。

 けれど、劉伯睿にそのようなことは許されていない。
 どこまでも聡明叡智で何事も完璧にこなせる劉家の長子は、真に劉家の将来を担うに相応しいと、示し続けなければいけなかった。

 幼い子供は、冷淡な仮面を被る。
 そして新しい家族との日々が始まった。
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