御曹司のとろ甘な独占愛
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 華やかな世界を垣間見たレセプションパーティー以降も、一花の日常は淡々と過ぎ去っていた。

 今週の火曜日に閉幕した台北貴賓ジュエリーショーは、今年も大成功をおさめたらしい。開催期間中は勿論のこと、伯睿は撤収作業に伴う挨拶回りなどにも追われており、会社の外でも忙しくしていた。
 彼が平行して準備を進めているオートクチュール・コレクションは七月初旬に迫り、すぐ後には『華翡翠』十周年記念セレモニーも控えている。

 先週末、一旦帰宅した伯睿と一花は自宅で会うことができたが、喜びも束の間。彼はアトリエにある道具や大切な作品を持って、また副社長専用フロアへ蜻蛉返りしてしまった。
 伯睿が日々仕事に忙殺されている現状に変わりはなく、それは同時に、一花に植え付けられた不安の種を育てるには十分な時間だった。


 夏至を迎えたというのに、今日もショーウィンドウの外はあの時のようなスコールが激しい。
 天気のせいにするわけではないが、一花の憂鬱な気持ちも変わらず晴れなかった。

 そんな折に、スマホに伯睿からのメッセージが届く。

(『今日は一緒に帰宅できそうです。明日の準備があるので、一花は業務が終わり次第、副社長室へ来て下さい』……わあ! 伯睿、やっと時間ができたんだ。良かった、働きすぎで心配だったし……)

 メッセージを読みながら、ほっと胸を撫で下ろす。一花はすぐに「わかりました」と短く返事を返した。
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