御曹司のとろ甘な独占愛
「……一花。俺はこれを捨てたりなんてしません。――絶対に。この朝顔の花簪は十五年間、俺の命同然に大切なものでしたから」

 静かに涙を流す一花の頭へ優しく手を添えると、伯睿は自分の胸に彼女を引き寄せた。

「……まさか俺以外の誰かが、俺がいない時にこの部屋に入るなんて想定していなかったので……完全に俺のせいです。――一花を悲しませるようなことをして、ごめん……」

 一花の頭の先から背中までを、伯睿の手が優しく温めるように滑る。
 きゅっと喉が苦しくなるような切ない温度に、一花は大粒の涙をこぼした。

 伯睿のせいじゃないと返事をしたいのに、こらえきれない嗚咽がもれる。塞き止められていた感情が一気に流れ込むように、とめどなく涙があふれた。

「……うっ……伯睿のスーツが、汚れちゃう……っ」

 伯睿のウェストコートに一花の涙が滲みを作る。

「そんなこと、まったく構いません」

 そう言って、伯睿は彼女を強く抱き寄せる。
 伯睿には、一花の涙の滲みすら愛おしかった。


 茜色に染まっていた景色は、見事な夜景に変わりつつあった。
 伯睿は、血色の戻ってきた一花をソファに座らせると、彼女の肩に自らのジャケットを掛けた。

「ここで少し、待っていて下さい」
「……うん」
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