御曹司のとろ甘な独占愛
 伯睿は、朝顔の花簪を仕舞っていたデスクの引き出しを改める。

(怡菲をこの部屋へ入れるために、お義母様は俺を引っ張り出したのか? 目的はなんだ? 朝顔の花簪と、まさか……!)

 ――伯睿の予想通り、朝顔の花簪と一緒に保管していた宝石箱が無くなっていた。

 繊細な金細工が美麗な硝子製の宝石箱は、伯睿がイギリス在学中に、一花を想って購入したものだった。

 硝子の天面からは、夜空のような天鵞絨が見える。
 純粋で透明感のある美しさが、西洋蔦をモチーフにした金細工によって崇高な空間を作り出していた。 
 それはまるで一花のための宝石箱のように感じ、『華翡翠』を制作するたびに、翡翠の裸石をそこへ保管してきた。

 今も、その宝石箱には、伯睿が丁寧に削り出した翡翠の裸石が幾つか入っていた。

 デスクの引き出しを開ければ、朝顔の花簪と同様すぐに見つけられただろう。
 硝子の天面からは、ロウカン翡翠がよく見えるはずだ。

(くそ……! もう完成というところで……こういうことを……!)

 ふつふつとした苛立ちが頂点を超え、あまりのことに、怒りの感情が失せるような感覚を覚えた。

 現在制作途中の指輪――『華翡翠』コレクションの十作目は、石座が一つ空いたまま、自宅のアトリエに保管してある。

 指輪のアームには、既にメレダイヤのセッティングを済ませてあり、中央の石座にはロイヤルブルーサファイアのセッティングを終えていた。
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