御曹司のとろ甘な独占愛
「さあて。僕は帰ろうかな? 一花ちゃん、おやすみ。またいつか会えたらいいね」

 慧は伯睿の笑みなど意にも返さず、いつも通り、甘いマスクに微笑みを浮かべた。伯睿の前でワザとらしく、彼の神経を逆撫でるように甘い声音で一花の頭を撫ぜると、タクシーに乗り込む。

「……本日は、本当にありがとうございました。……おやすみなさい」

 まるで店内でお客様をお見送りするように、一花は彼へ丁寧に頭を下げた。



 伯睿と一花は沈黙したまま、煌びやかなロビーを抜けてエレベーターへ乗りこむ。
 無言が痛いくらいの空間で、一花は何から話すべきか迷っていた。

 せっかく、こうして二人で過ごせるのに。
 ……もしかしたら、この夢のような日々が終わってしまうかもしれないのに。

 今、何を言葉にして、大切な時間をどう過ごすべきか、伯睿との距離感を測りかねていた。


 玄関で、靴を脱ぐ。

 室内に上がり、リビングへ向かう廊下へ足を踏み入れた途端――伯睿は一花を背中から抱きしめた。

「……ごめん」

 一花をぎゅっと抱きしめたまま、伯睿は喉を震わせる。
< 186 / 214 >

この作品をシェア

pagetop