御曹司のとろ甘な独占愛
 伯睿は一花をソファへ座らせる。自らは一花の前へ、跪いた。
 一花の両手を、優しく握る。

「少し、俺の家の話をしましょう」

 伯睿は順を追うように、子どもの頃の話から始めた。

 伯睿の母が亡くなり、祖母が亡くなり、そして貴賓翡翠を伯睿の父が継いだ。ここまでは伯睿も知っている事実だった。
 この先は、今日、怡菲とその父――李氏と別れてから、父から聞いたことになる。

 父が経営方針を変えた後、中華圏で貴賓翡翠を拡大していく中で、当時怡菲の祖父が経営していた香港最大の翡翠宝石商『美玲翡翠』に圧力をかけられた。

 伯睿の就任によってハイジュエリーブランドへと進化した『貴賓翡翠』は、現在その他の追随を許さず、『美玲翡翠』との立場は逆転しているわけだが、元々、祖母の代では吸収合併の話を持ちかけられていた。
 それを断り続けていたこともあり、当時の圧力は酷いものだった。翡翠の仕入れが出来なくなり、台湾国内の経営にも影響が出始めることになる。

 そんな時、『美玲翡翠』から縁談が持ち上がった。――うちの娘と結婚すれば、圧力を解除すると。

 昔から『美玲翡翠』との取引の場に、必ず義母はいた。義母のことは友人としてよく知っている。父には愛する亡き妻と、最愛の息子もいた。どちらも大切だったからこそ、結婚はできないと思った。

 父が縁談を断るはずの席で、義母は父に「昔から、愛しておりました」と告げる。
 そんな義母を目の前にして、「この女性は、もし自分と結婚しなかったら、一体誰と政略結婚をさせれてしまうのだろうか」と考えた。その瞬間。どこの誰よりも、父には自分が一番マシに思えた。

 この政略結婚を、自分が受ける。
 これが貴賓翡翠と義母の両方を救える最善の道だ。父はそう信じた。
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