御曹司のとろ甘な独占愛
 その後、赤字をどうにか回復させるため、貴賓翡翠を一度真逆に方向転換させることにする。
 今まで隠されていた祖母の名作や今までの珠玉のコレクションを放出することで、纏まった売り上げを叩き出した。翡翠ブランドとして一般に認知され、浸透し、客層が厚くなる。その後、仕入れ不良時代の翡翠の在庫をも減らすことに成功した。

 しかし、父が良かれと思ってやったことが、全て幼い伯睿を傷つけていることに、気づけなかった。
 ここから、父と息子のボタンの掛け違いが始まり――……。

 今から三年前。父は、怡菲の伯睿を映す視線が変だと気がついた。
 そして『華翡翠』コレクションが自分のためのものであると勘違いしているのでは? と気がつく出来事が起こる。父は義母へ訂正するように頼んだが、姪っ子可愛さに「伯睿と婚約させる」と言い張って彼女は耳を貸さなかった。

 香港を訪れた時、父本人が怡菲へ『華翡翠』は君の物では無いと否定したが、「わかっております」と微笑まれるだけに終わった。
 父はこれ以上、自分が撒いた種で伯睿が傷つくところを見たくはなかった。そうして、怡菲に幾つもの縁談を持ちかけることになる。

 伯睿は話し終えると、微かに、今泣き出しそうな笑みを浮かべる。
 ……父は、最初からずっと伯睿の味方だった。

「だから、怡菲は婚約者でも何でもないんです。父同士も認めていませんし、俺も公の場で何度も断っていましたから」

 握る一花の手を、彼女を安心させるように撫でる。
 一花は伯睿の黒橡色の瞳を見つめ、真実を心に落とし込むように、こくりと一つ頷いた。


「それにしても。俺の可愛い一花を、恋人ごっこの相手だなんて……許せないな」

 翡翠の件といい、朝顔の花簪の件といい、まったく凄い立ち回りだ。
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