御曹司のとろ甘な独占愛
 『一目惚れ』と表現してしまえば、途端にこの瞬間が陳腐になってしまう。もっと運命的な、確信的な何かを感じていた。
 だとしても。この感情を今、言葉として表現してしまうことは、この少女に対する冒涜だ。
 それでも何か言葉にしようと口を開けば、大粒の涙がはらはらと溢れそうになる。

 これもまた、“美しきもの”を感じた瞬間なのだろうか。

(――なんて、なんて幸せな感情なんだろう……!)

 伯睿は溢れそうになる切ない感情を抑え込むように、ゆっくりと瞼を閉じた。
 俺のことを、知ってほしい。俺のことを、考えてほしい。そんな想いばかり溢れて、胸が苦しかった。 

 伯睿は目の前に佇む眩しい光のような少女へ、そっと目を細めて微笑む。

(俺は、君を大切にしたい。大人になってからも、ずっと。この短い生活が終わったとしても、どうか俺のことを忘れないで。
 そして――できれば、一生、俺のとなりにいてほしい)

 伯睿は祈るような気持ちで、目の前の少女へ、手を差し伸べた。


 その時に彼女から貰った朝顔の花簪は、色褪せぬよう、細心の注意をはらって保管している。
 手の中で時を止めたまま、あの瞬間の美しさを保っていた。

 ――初恋は鮮やかに、今も伯睿の中に息づいている。

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