御曹司のとろ甘な独占愛
 日が暮れた後、一花は楽しみにしていた温泉を訪れた。
 情緒あふれる灯籠に照らされた、荘厳な石造りの露天風呂からは、満天の星空が見える。

 心地よい熱湯につかりながら、一花はほぅ……と息を吐いた。
 水面を揺らめく湯気が山の麓の冷えた空気と混じり、白く立ち昇る。

 ……伯睿に突然のプロポーズをされてからの日々は、一花の想像を超えた出来事が多くあり過ぎて、息をつく間も無くバタバタと過ぎ去っていった。

 そんな日々の中、一花を癒し続けたのは『華翡翠』コレクション十作目──伯睿から貰った婚約指輪だった。

 十五年前のあの時から、伯睿と一花の運命を密かに繋ぎ続けた一粒の翡翠が、こうしてまた一花の手元で新しい運命の扉を開いてくれることになるとは。
 ――本当に、夢にも思っていなかった。

(……伯睿と、これからもずっと一緒に過ごせるなんて……。毎日、幸せ過ぎて泣きそうだよ)

 とろりとした美しい青碧の翡翠を目に映す度に、一花は感動で心が打ち震え、頬を薔薇色に染めた。

 温泉を満喫した後、一花は習ったばかりの着付けで自らの浴衣を着付けた。
 多少帯と格闘したが、最後は綺麗に結ぶことができた。



 露天風呂から見えていた満天の星空を、もっと見上げていたくて、一花は湯上りの体で中庭へ下りる。

 遠くで、鈴虫の鳴く音が響いている。

 玉砂利に敷かれた御影石の上を歩くと、カランコロンと下駄が鳴った。
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