妄想は甘くない
何が起こったのか理解するまで、数秒を要した。
大神さんの唇が、わたしの唇に……触れて……!?
接近した長い睫毛を目に映していると、身体の芯から熱く何かがこみ上げるのを感じると同時に、強い憤りが湧き出るのを覚えた。
「……これ、邪魔」
僅かに顔を離したかと思うと眼鏡を奪われてしまい、視界がぼやけて更に猜疑心が募る。
彼の表情を上手く読み取れないながらに、ひと思いに睨み上げた。
「……もう、や」
眉根を寄せ、止めなければと開いた唇は再び塞がれてしまい、隙間から舌が入り込んで来た。
同時に首後部を大きな掌に支えられて、動きを封じられてしまう。
「んっ」
否が応でも与えられる口内で交わる濡れた感触が、考える力を奪って行く。
いつの間にか右手首も彼の長い指に絡め取られ、その強い力に解くことも叶わない。
妄想と現実の区別が付かなくなりそうな程に、繰り広げられる甘い仕置きは夢のようだった。
擦れたスカートとスラックスの向こうに感じる彼の身体を思うと、本能の赴くままに押し寄せる快楽に溺れてしまいたくなる。
キスってこんなに気持ちいいの……!?
浮かべた頭の隅にはそれでも尚、冷静さが残されていて、相反する理性が心の奥から浮かび上がった。
──違う。こんなの、わたしが望んだんじゃない。