妄想は甘くない
致し方なくキスを受け入れて、だけど酷く熱の篭った身体の奥を感じながらも、頭の中は混沌としていた。
そもそも、わたしは大神さんとどうこうなることなんか、望んでいなかったはずだ。
だって、傷付きたくなかった。
こんな風に、わたしの心なんて慮られることもなく、軽いノリみたいな気持ちをぶつけられるくらいなら、関わりたくなんかなかったのに。
「んぅ……」
漏れ出てしまう声を抑えて、力の入らない足先をどうにか踏ん張りながらも、体重を掛けているテーブルの脚が軋む音が何度も耳を掠める。
綺麗な王子様のままで居てくれた方が、余程良かった。
「うっ……」
大神さんの指先がぴくりと反応する様が、瞼を閉じていても伝わった。
「……っく」
きつく目頭に力を篭めていても、彼が身体を離した気配は感じ取った。
「──……ちょ」
視界は滲んでその顔は確認出来ない程だったが、噛み殺す声の変化を感じ取ったのだろう、途端焦燥の表れた低い声が前方から届いた。
わたしの目尻から大粒の涙が溢れていることに気付いたようだった。