妄想は甘くない
指示された通りシステムの印刷を済ませ、休憩所で待機していると、程なくして徐々に近付いて来た靴音が止まり、角から覗いた顔が口を開く。
「お疲れ様です。すみません、お呼び立てして」
「いえ」
顔を合わせるのはあの更衣室以来で、目を合わせただけで胸が一度大きく鳴った。
直接やって来たらしく鞄を携えた大神さんは、何事もなかったかのように落ち着き払った様子で、躊躇いなく向かいに腰掛け、ジャケットを隣に置いた。
先日の出来事を気にしているのはわたしだけなのかと気を揉むが、彼の方も以前とは何処となく雰囲気が違うようにも見て取れた。
早速低いテーブルに用紙を並べると、覗き込むように身を屈めた彼に説明を開始した。
「こちらがシステムの打ち出しなんですが、どうも別の名義で振り込まれていて、こっちの入金と金額が合致してしまったんじゃないかと……」
「……なるほど。いや、それなら理由が説明出来るので納得行くんですが……電話を受けた際に何の説明も質問もなかったと仰っていたので」
「……すみません、あの電話は新人の子に架電して貰っていて……リーダーであるわたしの教育不足です。申し訳ありません」