妄想は甘くない
どうしてこの人が、欲しい言葉をくれるのだろう。
怖々見上げるように窺った表情は真顔で、自分の鼓動だけが大きく響き渡っているかのように感じながら、不意に過ぎった。
……この人、二重人格なのかな。
紳士な彼と、腹黒の彼。
どっちが本当の大神さんなんだろう。
今わたしに見せている顔は、どちらの大神さんなのだろう。
熱い眼差しで見つめ過ぎたのか、彼が先を促す視線を投げ返した。
身体を強張らせてしまい、返事がわからずに黙っていると、口が開かれる。
「……俺は、信頼してます」
思い掛け無い台詞が返って来て、目を瞬かせた。
「……えっ……? わたしを……?」
反応に動揺が滲んでいたのか、前の人が真顔から今日初めての忍び笑いに変わった。
「信用ないなぁ。当然か、あんなことしといて。でも俺、宇佐美さんに嘘は吐いたことないですよ」
その面持ちは、これまでのようなキラキラしたものではなく、自然と零れた笑みに思えた。
気を緩めたのかソファにもたれ掛かり、柔らかな表情で瞼が伏せられた。