妄想は甘くない
隣に表示された久方ぶりに目にする名前に、心臓が嫌な音を立て始めた。
「……あ、結婚……したんだ……」
思わず独りごちて、その華やかな衣装を纏ったふたりと、取り囲む楽しげな人達をじっと眺めた。
もう何年も前のこと。この人と親しくなった当時は、これから付き合って行くのだろうかと期待に胸膨らませていた。
睫毛を伏せ、遠い記憶に想いを馳せる。
今でも胸を痛ませる、忘れないあの男の声。
『彼女欲しくないから、思い立った時に会って楽しかったら良いっていうか』
写真は小さく、本人も相手の女性の顔も、微かにしか窺えない。
「……この人は、そうじゃない人だったのかな……」
膝を抱え、ぽつりと口を突いて出た声が、静まり返った空間に波紋を広げて行った。