妄想は甘くない

「……いや……だって本来の担当者が戻って来たんだから……」
『僕と宇佐美さんの仲じゃないですか』

どんな仲だ、と胸中で突っ込みを入れながらも、浮き立ちそうな心が伝わらないように小さく息を吐いた。

『関根さん、大分復活したみたいで良かったですね』
「うん。まだ心配だけど、とりあえず復帰出来て良かった」

大神さんが柔らかく笑った声が耳に届いて、つられて笑顔が零れる。

『今週、忙しいですか?』
「関根さんが帰って来てくれたから、先週よりは全然。バタバタはしてたけど、今日も定時で帰って来れたし」

電話で話すのも慣れて来たはずなのに、これまでの業務連絡よりもプライベート感漂う空気にドキドキしてしまう。
考えながら言葉を繋ぐと自然と上方を見上げていて、天井からこちらへ向かって伸びているライトが目に映り込んだ。

『じゃあ、金曜日付き合って』
「……え、金曜日?」

『予定があるの?』
「……ないけど」

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