妄想は甘くない

髪型については突っ込まれることのないまま通話が終了し、ほっと胸を撫で下ろす。
食堂で一方的に見掛けたくらいであれ以来顔は合わせておらず、彼の方はまだ確認していないのかも知れない。
風呂上り、髪を乾かそうと鏡を覗き込んで、あの日のように毛先を握った。
待ってくれているのだろうか、金曜日に髪を下ろして行こうかなどと思案に耽り、いつの間にか睫毛を伏せていた顔は、鏡に向き直ると紅潮していた。


水曜日の昼休み、いつもの様に向かいに座って生姜焼きを咀嚼している女子をじっと見つめた。
斜めに流した長い前髪から繋がり肩に落ちるミディアムストレートヘアは、いつも艶があって綺麗だと認めざるを得ない。
わたしの執拗な視線に気付いた近藤が、訝しがって目元を歪めた。

「……何?」
「えーと……髪のケアって、どうしてるの……?」

珍しい話題に目を丸くしたかと思うと、楽しそうに身を乗り出しほくそ笑む。

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