妄想は甘くない

まるで初出勤かのような気恥ずかしさを纏わり付かせつつ、社員証を翳してドアを潜った。

「おはようございます」
「おはようございます……あれっ、宇佐美さん可愛い~! 今日は髪下してるんですね」

「……いや、あのこれは……たまたま、気分で。それより今日、定時で上がらせて貰って良いかな……」

顔を合わせるなり感嘆の声を上げた関根さんによくわからない言い訳を零して、頼み事をするにもかかわらず目を逸らしてしまう。

「構わないですけど……宇佐美さんが珍しいですね。……もしかして、デートですか?」
「でっ! デートなんかじゃ」

「あれっ、あやし~い」
「だから……っ」

浮ついた話題に興味がないかと思われた彼女がはしゃいだように口にした冷やかしが想定外で、尚更慌てた。


無事定時で退社出来たものの、待ち合わせについては特に聞いていない。
何処へ行けば良いんだ? と思いあぐねつつ私服のブラウスに袖を通す。

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