妄想は甘くない
更衣室のドアを開くと視線の先に、またしてもエレベーターホールに佇んでいる人が居た。
「ちょっとこんな目立つところで……!」
「……うるさいな。宇佐美さんに文句言う権利あると思ってるんですか?」
即座に駆け寄り躍起になった訴えは、人目もはばからず瞬時に一蹴されてしまい、堪らず食って掛かる。
「“うるさい”!?」
先輩に向かって聞き捨てならない暴言が吐き出されたかと思うと、口は悪いのに楽しそうな流し目に釘付けになった。
「大人しく連行されなさい」
指図する大きな瞳に捕われて、接近した距離に赤く染まった頬を隠す術もなかった。
誰かに見られるかもしれない緊迫した場面で、不服を申し立てなければならないのに掴まれてしまった心臓が苦しい。
火照った顔で、大神さんに手首を引かれるがままにもたつく足を踏み出しヒールを鳴らした。