妄想は甘くない
自分の心音だけをはっきりと拾っていた静寂の中で、指の隙間に彼のそれが絡められた。
繋いだ手から伝わってしまうのではないかと危惧する程の音量で、心臓が振動し始める。
ゆっくりと怖々顔を上げると、熱を孕んだような瞳と目が合ってしまう。
こちらへ向き直った彼の重心が、次第に傾けられ距離を詰める。
背もたれに倒れたわたしの顔を覗き込むように身を寄せたかと思うと、軽く唇が触れ合った。
初めてキスした時とはまるで違う遠慮がちな口づけから、左耳に掌が添えられると啄むようなキスに変化した。
狭間で甘い息を漏らしながら、徐々に深く舌を絡め合った。
「……っん……」
肩を引き寄せた掌に体重を預けて、時間も忘れてキスに溺れた。
全身から立ち上るような恍惚感を味わいながら、心の声が脳内で囁く。
なんだこの恋人まがいの……甘さは。
あんまり甘ったるくて……怖いくらい。