軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
ふと、なにを思ったのか、恭しくお辞儀をし始めた。だが身振りが演舞でも見物しているかのように大きく、わざとらしい。そう見えるのは、気のせいだろうか。
困惑しながら隣のレイヴンをちらりと見ると、額に手を当てて「はぁっ」とため息をついていた。
レイヴンが疲弊を浮かべる一方で、謎の男は深く下げていた頭を上げると背筋をピンッと伸ばし、眼鏡をクイッと人差し指で押し上げて叫ぶ。
「レイヴン・ヴォルテール皇帝陛下、お迎えに〝来てあげました〟よ!」
「俺が自分で帰ってきた、の間違いだろう。べリエス・ローレンツ軍事司令官殿」
にっこりと微笑むべリエスに、ふんっと鼻で笑うレイヴン。そんなふたりの嫌味の応酬には目もくれず、セレアはひたすら混乱していた。