軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「セレア……ここを出て、ふたりで暮らさないか?」


(え?)


 考え込んでいるところに、信じられないひと言を浴びせらる。ありえない、と何度も自分に言い聞かせるのに、彼の熱誠のこもった視線が逃がさないとばかりに見つめてくる。


「今幸せなきみに、こんなことを言ってすまない。でも、言わずに後悔したくなかったんだ」


 答えは決まっているのに、言えないのは彼を傷つけるとわかっているからだ。震える唇が開閉を繰り返すも、出るのは掠れる吐息だけで声にはならない。


 行けない、その気持ちには答えられない、と言ったら。彼は気遣う笑顔の裏で、人知れず泣くのだろうか。考えるだけで、胸を抉られるように辛い。

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