軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「いつ見ても、綺麗ね」


 庭園を歩きながら声をかけると、「ああ」という短い返事が返ってきた。


彼は口数の多い方ではないが、最近はたくさん話かけてくれる。それに気づくたびに、レイヴンの心に近づけたようで嬉しくなった。


「今日まで、色々あったな」

「そうね。この国に来ていきなり婚礼をあげて、戦争が始まって。息をつく暇もなかったわ」


 今思えばいい思い出だとくすくす笑う。すると、突然レイヴンが足を止めた。


数歩先でそれに気づいたセレアが振り返ると、彼が眩しそうにこちらを見ているのに気づく。


「婚礼や初夜のときも、お前は泣いていた」


(それは……私のためだと彼が距離をとろうとすることが、寂しかったから)


 彼の気遣いが逆に、セレアの心を苦しめていたあの日々。毎日息が詰まるほどに、辛かったのを思い出す。


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