軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「クソッ、俺はこんなのところにいる場合では……ぐっ」


 ブツブツとなにかを呟いていた男が、急にうめき声をあげて苦悶の表情を浮かべる。


「大丈夫ですか! どこか痛むのですか?」


 額には玉のような汗をかいており、セレアは緩んだ右手の拘束を振り払って彼に手を伸ばしたのだが――。


 その手はパシンッと乾いた音を立てて、払われる。


「俺に触るな!」

「あ、すみませんっ」


 ヒリヒリと痛む手を力なく下ろして、まるで手負いの獅子のようだなと思う。


(心も体も傷だらけで、人が信じられないみたい。きっと、驚かせてしまったのね)


 距離感を間違えれば、彼は二度と自分を信じてくれなくなってしまうだろう。まずは、お互いを知るところから始めてみようと自分を励ます。

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