軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
「この神殿の意志が鎖国を望んでいる限り、永遠にこの島に自由など生まれないぞ。他者と交わり、広い世界を見るからこそ感性も考えも広がるというのに」
(言いたいことはわかるけれど……私だけではどうしようもできないわ)
君主ならば彼の言った通り、この国の因襲を壊して自由な思想をもった国に生まれ変わらせることこともできただろう。だがお飾りの聖女には結局、誰も救えやしないのだ。
「お前は人柱のままでいいのか」
抱きしめられたまま、切ない気持ちでレイヴンの言葉を受け止める。
「人柱……」
その問いは、聖女じゃない普通の女として生きるという望んではいけない夢を抱かせる。そんな幸せを望んでしまいそうで、たまらなく怖くなった。