軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「行ってきます、獅子神」


 最後に強く抱きしめて、名残り惜しむようにそっと離れる。獅子神はどこかへ行こうと歩き出したが、すぐに立ち止まった。どうしたんだろうと首を傾げると、ついて来いと言いたげにこちらを振り返る。


「獅子神がついて来てほしいみたい」

「驚いた、獅子が人に懐くとはな」


 先導する獅子神の後ろをついていきながら、隣を歩くレイヴンが関心したように言う。


 獅子神は利口で、人間の言葉を理解している素振りをたびたび見せる。セレアを気遣うようにすり寄ってみせたり、人より人らしいと思っていた。


「ここは、裏手の砂浜に出る抜け道だ!」


 嬉しそうなアグニの声とは裏腹に、セレアは壁に開いた大きな穴を見て驚いていた。


「これ、あなたが開けたの?」


 目を瞬かさせて尋ねると、獅子神は肯定するように頷いた気がした。


 八年にも渡り彼の側にいたが、こんなお転婆な一面があっただなんて想像もしていなかった。


 セレアは驚きながらも、彼には自由を求めて行動できる強さがあるのだと知る。


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