軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
誰かと愛し合うこともできず、孤独の中で死んでいく。突然与えられる理不尽な運命に、神など存在しないと悟っているのは崇められる立場にいる聖女かもしれない。
「掟を破れば、きみは聖女ではなく魔女となり、火あぶりの刑に処されてしまう」
「でも、ほっておけなかったの」
自分の寝台に横たわる男を見つめて、胸が締めつけられる。その顔は死人のように青白く、指先ひとつとしてピクリとも動かない。
目の前で息絶えようとしている人がいるのに、他国の人間だから助けないだなんて掟の方が愚かだ。
「アグニ、このことはどうか内密に」
「あたりまえだ。大切なきみを危険な目には合わせられない」
アグニと最後に話したのは、いつだったか。思い出せないくらい久しぶりに、言葉を交わした。彼の部屋を訪ねるとき、誰かに見つかるかもしれないというドキドキとは別に、どんな顔をして合えばいいのかと緊張したほどだ。