軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「今まで、なにもしてあげられなくてごめん。俺にもきみを連れ去って幸せにするよ、くらい言える気概があったらよかったな」


 眉尻を下げて、それでも無理やり笑おうとする彼に首を横に振る。


「あなたがいなければ、とっくに私の心は壊れていたわ」

「セレア……ありがとう」


 そのお礼が別れの言葉に聞こえて、胸のあたりがぎゅっと締めつけられた。


 自分の人生を捨てたのは、アグニも同じ。彼の家はごく普通の農家で、セレアを追いかけて神殿にさえ努めなければ、普通の生活が送れたのだ。


恋をして誰かと家庭を持ち、添い遂げる。ごく普通の幸せを手にすることができたのに、すべてを投げ打って自分を選んでくれた人。


そんな優しい彼を絶望しかないこの場所に置き去りにできるのだろうか。



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