軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「アグニ……っ」


 その場にしゃがみ込みながら、口元を抑えて嗚咽をこらした。


(どうか神様、アグニをお守りください)


 止まらない涙もそのままに、必死に手を合わせて祈る。神様なんて信じていなかったけれど、今は彼を救ってくれる可能性のひとつもあきらめたくなかった。


 しばらくその場で泣いて、島が見えないほど船が沖に出ると、セレアは船首で舵を取るレイヴンの隣に並んだ。


「もういいのか?」


 視線は進行方向に向けたまま、気使うように尋ねられる。


 レイヴンはしばらくひとりにしてくれていたのだ。思いっきり泣いて、心の中にたまった悲しみを吐き出せるように。


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