鬼の生き様



「六所宮の東広場は広く開けている。
そこを借りて天然理心流の門人、およそ総出で七十人。
それを二手に分けて三十五人、源平合戦のように戦わせるんです」

 今まで考えたことのなかった歳三の提案に、なるほどと一同は目を丸くした。

「たしかに府中六社宮は、源頼朝が妻の安産祈願をしたり、源頼義と源義家が奥州に向かう際、戦勝祈願をしたと伝わる由緒正しい神社です。
源平合戦とは、確かに土方くんの言う通り面白いかもしれませんね」

山南は乗り気になって、武蔵総社六所宮の講釈をし、歳三はニヤリとしながら頷いた。

「山南さんの言う通り。
野試合をするとなりゃ、天然理心流の名前はさらに広がる。
天然理心流は実戦向きの剣術、他の剣術道場より派手な野試合になるだろう。
最近、甲源一刀流の勢いも増しているが、多摩に天然理心流ありって事を改めて多摩の者達に知らしめてやろうじゃねえか」

「いいぞ、歳三!」

周助は完全に乗り気となっていた。

「しかし、それをやるに至っては大義名分が欲しい」

一同は静まり返り、山南も大義名分という言葉に、はて、という顔をした。

「これがただの野試合だったら、型試合と何ら変わらない。
下手をすれば『また近いうちに野試合をやるんじゃねえか』と思い、来ない者達も居るはずだ。
是が非でも、行かねばならん、という大義名分がほしいのだ」

 歳三は茶を啜り、みんなを一回り見た。
勇も確かにそうだな、と頷いている。
その大義名分はもう歳三には考えが付いている。

「…天然理心流、宗家四代目の襲名披露」

この言葉に勇は驚いたように目を見開いた。
周助は暫く目を瞑り、無言。

 この静寂を壊すのは、周助以外他ならないのだが、静寂は破られずに、ゴクリと息を呑む音や、勇の心の臓を打つ鼓動までもが聞こえてしまうのではないかというほど、ひたすら無言の時間が流れた。

しばらくして、周助は目をゆっくりと開いた。

「歳三の言う通りだ。
俺ももういい年、そろそろ勇に代替わりをさせねえといけねえとは思っていたんだ」

 こうして勇の四代目襲名披露の日程は決められていった。
急を要すると門人達も戸惑うと感じ、一年後の八月二十七日に襲名披露を行う事に決まった。
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